近年日本においても、中小から大手までITアウトソーシングを取り入れる企業が増えてきました。ITアウトソーシングは各企業が「量より質」を重視し、効率的かつ生産的に社内におけるITの問題と向き合い、解決する経営方針となります。しかしながら、「人件費の削減」、「人材不足の補填」といった目に見えるメリットのみでITアウトソーシングを取り入れると、場合によっては失敗に繋がることもあります。
そこで、今回は考えられる失敗例や、失敗から学ぶ成功の秘訣をご紹介します。
ITアウトソーシングとは?
そもそもITアウトソーシングとは何か。ITアウトソーシングとは、端的に言えば、社内のIT関連の業務を外部企業に委託(アウトソーシング)することを指します。アメリカが80年代に注目・発展させたとされていて、日本では90年代以降、大手企業を中心に取り入れられはじめています。ITアウトソーシングの目的として、当初は「コスト削減」という位置づけに留まっていましたが、2000年代に入り、IT関連業務が重要なポジションとみなされはじめたころから、専門集団にアウトソーシングすることによる生産性の維持と向上、テクニカルな問題の早期解決といったものに重きが置かれるようになりました。
ITアウトソーシングでありがちな失敗談
ITアウトソーシングは成功すると、コスト削減、自社ITの高度化、自社IT社員の不満の解決やキャリアの再確認といった、IT部門の抜本的ともいえる再編に一役買ってくれることとなります。しかしながら、ITアウトソーシングにはいくつかのリスクが伴うことも事実です。
下記では代表的な4つの失敗例を紹介していきます。
ITアウトソーシングの失敗① アウトソーサーの選定の失敗
ITアウトソーシングとは経営方針を指し、ITアウトソーシングを受託する企業をアウトソーサーと呼ぶのが慣習となっています。ITアウトソーシングを成功させるために重要なのが、まずは良質なアウトソーサーの選定です。アウトソーサーの選定に失敗すると、社内スタッフ、得意先、エンドユーザーからクレームが来たり、最悪自社が損害を被ることもあります。
失敗例の1つとしては、「アウトソーサーを付き合いの長い得意先に委託した」というもの。アウトソーサーは全員がプロフェッショナルといっても、やはりスキルはピンキリですし、実績に乏しいところに依頼した場合は、「当初抱えていた問題をいまだに解決できていない」、「アウトソーサーに業務の一部を任せる分、自社SEには新規プロジェクトに動いてほしかったが、アウトソーサーとの連携がうまく図れず、作業効率がむしろ悪くなってしまった」
こんな声は実は少なくないんです。
ITアウトソーシングの失敗② アウトソーサーに依存している
アウトソーサーに一任すると、驚くほど業務効率が向上し、これまでIT部門の社員のみでは対処できなかった問題の解決が実現し、さらに新規プロジェクトやシステム開発に時間を割くこともできるようになります。しかし、その一方でアウトソーサーに任せきりにしてしまうのはありがちな失敗例の1つ。アウトソーサーがすべての業務を担ってしまうと、重要なITの部分を依存してしまい、自社IT部門の社員のスキルやノウハウが蓄積しなくなって、生産性が変わらない、高度なIT技術を取り入れるのに余計なコストが必要となった、とアウトソーシングの見直しを余儀なくされた企業もあります。
ITアウトソーシングの失敗③ むしろコストが高くついてしまう
「当社はコスト削減を目的にアウトソーシング化するから、当然委託する業者へは最安値を要求するよ」という考えは要注意。契約後にアウトソーサーと綿密な打ち合わせをしないで、どこまでが業務の範囲内かを明確にしていないがために、なかなか自社IT部門の社員の労力が減らなく、むしろコストが上がってしまった、という失敗事例はいくつもあります。
ITアウトソーシングの失敗④ アウトソースが裏目に!品質の低下
「アウトソースしたのになんで品質が低下するんだ?」とイメージが湧かない方もいるでしょう。しかし、これも失敗例としてはしばしば見受けられます。例えば「アウトソーシングしたら、一連の業務をそのまま委託できると思っていた」ことが品質低下の原因となった企業があります。
アウトソーサーと自社社員のコミュニケーションが不十分だったため、成果物の確認漏れによる業務ミス、システムの不備、社員によるアウトソーサーに対する不満などが品質低下を招きました。
ITアウトソーシングを確実に成功させるポイント
では、ITアウトソーシングを成功させるためには、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか。下記では代表的な4つの事柄をご説明します。
アウトソーシングの目的を事前に決める
まずはアウトソーシング化を進める目的・目標が何なのかを明確にする必要があります。ITアウトソーシングによる代表的な目的は、「コスト削減」、「高度なIT技術の取り入れ」、「作業効率の向上」、「作業効率の向上により、いままで実現できなかった新規プロジェクトやシステム開発の実施」などが挙げられます。単に「コスト削減」といっても、年間でどの程度のコストを削減したいのか、削減したコストをどこにどのように還元し、さらなる企業の維持・発展に繋げるのかなど、明確な基準を持って考え、取り組む必要があるでしょう。
アウトソーサーは時間をかけて選ぶ
アウトソーサーを選ぶに当たって重要なのは、コストだけではなく、アウトソーサーの持つ専門知識レベル、セキュリティ確保、ブラックボックスの可視化、責任範疇の明瞭化、実績などが判断基準となります。先の失敗に代表するような、長い付き合いだから、という理由で実績のないアウトソーサーに依頼すると、実務レベルでの失策に留まらず、会社の経営、取引先からの信頼問題に発展することもあることは覚えておきましょう。
責任の所在と範囲。最低限求める品質をルール化
アウトソーサーと交渉する際は、アウトソーサーの作業内容や責任範囲、必要品質についてしっかりと確認することが肝要です。責任範囲が不透明の場合、現場のSEが混乱、社内風紀が悪くなるばかりか、業務ミスが多発する懸念があります。アウトソーサーに業務に当たってもらう際に、しっかりと契約内容を詰めていれば、不測の事態が起きたときにアウトソーサーと自社SEで問題を共有することができますし、アウトソーサーのみが知っているシステムや実務がある、といった所謂ブラックボックス化を防ぐことができます。
アウトソーサーを客観的にしっかりと実務評価する
ITアウトソーシングを導入したあとは、定期的に作業内容の品質評価をすることも重要です。自社社員の意見を取り入れるのもおすすめですし、毎月アウトソーサーと実務内容の確認・精査をするのも忘れないようにしましょう。場合によってはアウトソーサーに委託する業務範囲の変更を検討することになるでしょうし、またアウトソーサー自体の変更、導入の再考も迫られることもあるかもしれません。
最後に
ITアウトソーシングは企業の経営に関わる中枢を担うケースが多いため、明確な目的を持ってアウトソーサーを選別することが求められます。アウトソーサーを面談する上で大切なのは、まずは自社が抱えている課題と要望を叶えてくれるかどうか。そして、さらにその背後に隠れているまだ見ぬ問題点を洗ってくれて、経営者の立場になった提案をしてくれる業者を見つけましょう。